伊福部昭百年紀を聞きたい! 樋口真嗣
伊福部昭百年紀を聞きたい! 樋口真嗣
オーケストラ・トリプティークの素晴らしい点の一つとして、耳コピーを尊重することにあるのではないか、と思います。
我々が結果として耳に残っている楽曲、とりわけ限られた条件で録音された時代の音、それは決して残された譜面と一致するとは限りません。
極論すると作曲家の意思よりも好きになってすり減るまで聴き込んだ曲の、オーケストレーションの、演奏のちょっとしたニュアンスをどう抽出するか?
その一点を再現するために集まっている集団、とお見受けする次第であります。
その変態的愛情によって、本来映画を構成する部品の一つであったその楽曲は映画から切り離され、もしかしたら映画以上に映画的な作品として独り歩きを始めました。
その公演を重ねた上で、何か聞きたい曲はありますか?
え?そんなことを決める事をしていいのでしょうか?
遡ってもかなりの楽曲は網羅しています、私以上にお聞きになっている方はいっぱいいらっしゃるはず。何だよあとから来たくせに偉そうに、俺は私はもうその曲聞いてるしお前が聞きに来るはるか前にな!と思われるのがオチでございましょう。
そんな中で、あ!これはまだやっていないし、オオバコで聞きたい!
と思わせる楽曲。
それが「わんぱく王子の大蛇退治」です。
まだ本オケで演奏されていないこと、本オケにふさわしいダイナミズムとスケール感、同時に繊細さが要求されること
現存する録音データが時代背景のせいもあって非常に恵まれていないこと
後に再録音された演奏が(言いづらいのですが)オリジナルと乖離していること。
だからこそ、トリプティークの皆さんに当時の演奏を目の前で再現していただきたいのです。
オリジナルと交響組曲版での重大な変更点は、低音の厚みです。
特に冒頭の四連符によるアタックの中にサントラでは前に出ている低音楽器やエレクトーンなどの跳ね上げるようなアタックが交響組曲では埋没しているのです。
官能的な響きが耳に残って大好きなんですけど、なかなか難しいのでしょうか?
このニュアンスを一つよろしくお願いします。
樋口真嗣(ひぐちしんじ)
特撮、アニメ、実写と幅広く活躍する映画監督。高校卒業後、「ゴジラ」(84)に造形助手として参加。84年からガイナックスでアニメ制作を経験し、アニメ映画「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(87)では助監督を務める。92年、ガイナックスを退社した前田真宏らとともにゴンゾの設立にも携わった。特撮監督を務めた「ガメラ 大怪獣空中決戦」(95)で、日本アカデミー賞特別賞特殊技術賞を受賞する。庵野秀明監督の大ヒットTVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(95~96)には、脚本や絵コンテとして参加。庵野監督とは親交が深く、同作の主人公・碇シンジの名前は樋口真嗣からとられたとされている。05年、実写映画「ローレライ」で監督デビューし、その後「日本沈没」(06)、「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」(08)でメガホンをとる。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズ第1弾「序」(07)と第2弾「破」(09)では、絵コンテやイメージボードなどを担当している。犬童一心監督と共同でメガホンをとった「のぼうの城」(12)で日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した。 監督をつとめるTVアニメ『ひそねとまそたん』が 2018年4月から放送開始。