(明治40年4月4日~昭和34年7月2日)
秋田市新屋下表(元町)の内科医伝五郎の三男としてうまれる。長兄も医師、次兄はアミノ酸の研究で知られる農学博士であった。秋田中学時代の深井は漠然と建築家を志していたが、音楽や美術への興味も持っていたようだ。中学四年からは鹿児島の七高造志館へ入学し、校内のルーザ・カルテットに加わってさらに音楽へ熱中して行った。しかし、この時点では作曲家になろうとは夢にも思っていなかったそうである。
深井の人生を変えたのは知らず知らずのうちに蝕まれていた胸の病であろう。結局、学校は卒業したものの、郷里に帰ってから2年間も療養生活を送ることになった。深井は病気が軽くなると、秋田マンドリンオーケストラに加わり、そこの指揮者であった作曲家石田一郎の父で国語教師の石田直太郎(秋田で有名な趣味人だった)と出会い石田の薫陶をうけた。その内に病も癒えて深井の音楽への思いはよりはっきリしたものとなっていった。
作曲の勉強をするために東京へ出た深井は、国立音楽学校、帝国音楽学校と学びを深める。帝国音楽学校では菅原明朗と出会い作曲の教えをうけた。さらには楽壇一の文章家として私淑していた伊庭孝とも知り合い、「作曲家は模倣を恐れてはならなどのその後の深井に強い影響をあたえる教えをうけた。
深井の作曲家としてのデビューは1934年の《5つのパロディ》が新交響楽団邦人作曲コンクールに入選したことからはじまった。この作品は「作曲家は模倣を恐れてはならない」との伊庭の教訓がいかされている。それは古今の大作曲家のスタイルを借用してパロディ的に批評、かつ讃美するものとなる。この曲は山根銀二らの賞賛を受け注目を浴びた。《5つのパロディ》を改作した《パロデイ的な4楽章》は現在でもCDで聴く事が出来る(ローゼンシュトックが在日中に演奏した日本人作品の中でもっとも面白く、記憶に残ったのはこの作品だといったそうだ)。
パロディ的批評精神は満州の民謡を借用した《大陸の歌》や日本民謡を借用した《日本俚謡による嬉遊曲》などにもみられるが、そのような深井の仕事で忘れてはならないのが1942年の《ジャワの唄声-交響的映像-》である。この作品は朝比奈隆指揮の日本交響楽団により録音され、戦時下にSP盤が発売されている。
曲はガムランを意識したリズムや、日本からジャワあたりまでの汎アジア的民謡音階を使い、ボレロの如く反復し盛り上がり、オーケストラが爆発する。なんとも爽快な曲である。が、表面上爽快な曲にも深井のパロディ、批評精神はしっかりと隠されている。この曲には当時の「大東亜共栄圏」建設の夢と、その崩壊を危惧する深井の預言的シニカルな意見が隠されているように私には思えるのである。それは、日本からジャワへの民謡の戯れと高揚は「大東亜共栄圏」建設の理想を、高揚して爆発、収束して行くオーケストラは、理想の失敗と敗戦を暗示しているのではないか?是非とも《ジャワの唄声-交響的映像-》が早くCDになることを望む。その際には興味を持った方には聴いていただきたい。
深井は映画音楽の世界でもたくさんの作品を手がけ150本以上の映画に音楽を作曲している。た。映像に対するパロディ、批評と考えると、深井が劇伴音楽にその才能を発揮するのも良くわかる。映画音楽を通じて聴衆に音楽を発信する事の重要性についても語っていた。戦後は映画の仕事も多くなったせいか、作品が少なくなり、映画の仕事で京都に滞在中に狭心症で急逝した。
年代 | 年齢 | 作品 |
1930 | 23 | 歌曲「習作.冬」(詩/佐藤春夫) |
1931 | 24 | マンドリン・オーケストラのための「マリピエロ譚詩」 |
1932 | 25 | マンドリン・オーケストラのための「アスファルト」(「散歩より(プロムナード)C) |
1933 | 26 | ミュージカル・プレイ「楽しき夏の夜」 |
1934 | 27 |
ラジオ・オペラ「おもちゃ」 管弦楽曲「五つのパロディ」 弦楽四重奏曲「三つの特徴ある楽章」 「小間奏曲」(「楽しき夏の夜」より、フルートとピアノのために) バレエ音楽「都会」(ピアノ版・合奏版) バレエ音楽「悦び」(ピアノ) |
1935 | 28 |
歌曲「春幾春」(詩/城左門) バレエ音楽「エチュード」(ピアノ) バレエ音楽「圧搾された瞬間」 物体舞踊「丸の休みの日」の音楽(ピアノ) |
1936 | 29 |
管弦楽曲「パロディ的な四楽章」(「五つのパロディ」改作) 管弦楽曲「<都会>より」 バレエ音楽「都会」(合奏改訂版) |
1937 | 30 |
俚謡ラプソディ「江差追分」(作/川路柳虹) 俚謡ラプソディ「大漁歌」(作/城左門) 歌曲「水の歌」 歌曲「芥溜を漁る人」(詩/北川冬彦) 放送軍歌「特別陸戦隊頌歌」(詩/城左門) バレエ音楽「都会」(2台ピアノ版) バレエ音楽「南方十字星(サザンクロス)」 |
1938 | 31 |
歌曲「潟の小径」(詩/菊岡久利) 歌曲「廃園」(詩/城左門) 歌曲「蛙・祈りの歌」(詩/草野心平) 歌曲「水の歌」(詩/城左門) 国民詩曲「日本俚謡による嬉遊曲」 |
1939 | 32 |
歌曲「日本の笛」(詩/北原白秋) 歌曲「短歌五首」(詩/与謝野寛) 歌曲「落ち葉を焚く歌」(詩/川井酔茗) |
1940 | 33 |
カンタータ「平安京」 「<空想部落>の音楽」 バレエ音楽「創造」(オーケストラ) 放送「叙情詩曲<寂光院>」 |
1941 | 34 |
管弦楽曲「大陸の歌」(2管) 行進曲「堂々たる進軍」(管弦楽) |
1942 | 35 |
国民合唱「子を頌ふ」(詩/城左門) 「ジャワの唄声-交響的映像-」 バレエ音楽「あらしの中の病院船…啓吉公用スグ帰レ」(ピアノ) バレエ音楽「桜のたましい」 バレエ音楽「愉しきかな」 放送「大東亜戦記 朗読と管弦楽・吹奏楽」(構成/深井史郎) |
1943 | 36 |
歌劇「敵国降伏」(台本/土井晩翠:城左門) 歌曲「秋」(詩/深尾須摩子) 歌曲「ふるさと」 管弦楽曲「大陸の歌」(3管) 管弦楽曲「英魂を送る」 管弦楽曲「海原」 大吹奏楽のための「大陸の歌」 吹奏楽曲「英魂を送る」 放送「日本の母 歌と詩と管弦楽」(詩/田中冬ニほか) 放送「藍を五体に染めて 詩と朗読と管弦楽」(詩/島崎曙海) |
1944 | 37 |
歌曲「戦死せる彼等のために」(詩/大江満雄,’46改作「三つの歌」) 「フィリッピン国民に贈る管弦楽序曲」 吹奏楽曲「ビルマ祝典曲」 バレエ音楽「習作」(ピアノ) |
1945 | 38 | フルート独奏曲「春」(ハープ(ピアノ)、弦楽伴奏のち「牧歌」と海改題) |
1947 | 40 | バレエ音楽「黒い翼」(ピアノ) |
1948 | 41 |
放送「叙情詩劇<しあはせな女>」(作/土橋治重) 放送劇「アッシャア家の崩壊」(原作/ポー、脚色/野上彰) |
1949 | 42 |
カンタータ「平和への祈り」(詩/大木淳夫) ラジオ歌謡「夕焼け小焼け」(詩/城左門) バレエ音楽「習作No.1」(ピアノ) 放送劇「恋の影岩」(作/福田正夫) |
1950 | 43 |
ラジオ・オペレッタ「天国遁走曲」(作/八木隆一) 合唱曲「天地讃頌」(詩/大木敦夫、) 舞踊音楽「秋の声」(オーケストラ) バレエ音楽「黒い翼」(フルート、ピアノ) ラジオ小説「合駒富士」 |
1951 | 44 |
童謡「山鳩ポポ助」(詩/サトウ・ハチロウ 放送劇「奇蹟」(作/八木隆一 放送劇「雙子の星」(作/宮沢賢治、脚色/野上彰) |
1952 | 45 |
合唱曲「青春讃歌」(詩/神保光太郎) 「酒房『火の車』の歌」(詩/草野心平) 放送劇「新世界設計図」 放送音楽劇「かぐや姫」 放送音楽劇「花咲爺」 放送音楽劇「桃太郎」 放送劇「放浪紳士ハリー・ライム氏」 |
1953 | 46 |
歌曲「海」(詩/野上彰) 「神秘的組曲(マイクロフォンのための音楽)」(芸術祭参加) 「ジャズのためのラプソディ」(東京キューバンボーイズのための) バレエ音楽「月光とピエロ」(フルート) 「ヴァイオリンとピアノのための<蛙>」 放送劇「昔話<源五郎>第一部」(脚色/堀江林之助) 放送劇「帰ってきた人」 放送劇「亡霊物語 恋慕の橋」(作/真船豊) 放送劇「ふるさと(南部牛追歌による)」(作/伊馬春日) |
1954 | 47 |
バレエ音楽「青草の上(風わたる) 放送劇「ふるさと」(作/真船豊) 放送劇「肖像画」(原作/ゴーゴリ、脚色西川清之介) 放送劇「敵」(原作/チェーホフ) |
1955 | 48 |
童謡「沖の小鳥は離れ島」(詩/サトウ・ハチロー) 歌曲「蛙・祈りの歌」(詩/草野心平 アルト用) 「十三人奏者のためのディヴェルティスマン」 放送劇「群盗」(原作/シルレル、脚色/秋元松代) 放送劇「鴉なき」(作/堀江林之助) |
1956 | 49 |
管弦楽曲「架空のバレエのための三楽章」 「交響絵巻〈東京〉」第ニ部(第一部は清瀬保二) 放送劇「石と岩」(作/伊馬春日) 放送劇「芦笛のものがたり」(作/八木隆一) 放送劇「智恵子抄」(原作/高村光太郎、脚色/草野心平) 放送劇「須佐之男の命と大国主の命」(作/武者小路実篤) |
1957 | 50 |
歌曲「四つの日本民謡」 「交響絵巻〈東京〉」第ニ部(改訂版) ラジオドラマ「風琴と魚の町」(原作/林芙美子、脚色/八木隆一) 放送劇「夜間飛行」(作/田井洋子) |
1958 | 51 |
歌曲「子供のための三つの歌」(詩/村野四郎) 「田園ソング<三べんまわって>」(詩/竹中郁) |
1959 | 52 | 映画「浪花の恋いの物語」作曲中に急逝する。 |
その他
作曲年 | 作品名 |
? | 埼玉大学教育学部附属中学校行進曲 |
? | 埼玉大学教育学部附属中学校校歌 |
? |
上越教育大学学校教育学部付属中学校校歌 上越教育大学付属中学校校歌 |
? | 日本テレビ局名タイトル |
? |
鳩の休日 NTVのテーマ テーマ/NTV |
? | 水戸第二高等学校校歌 |
? | 結城第二高等学校校歌 |
? | 横浜商科大学校歌 |
? |
横浜第一商業高等学校校歌 横浜商科大学高等学校校歌 |
? | 宇治山田高校校歌(山高校歌) 作詞:草野心平 |
? | 新潟県立長岡高校の「第二校歌」 作詞:堀口大學(旧制長岡中学卒業生) |
オーケストラ作品
作曲年 | 作品名 |
1934 | 管弦楽曲「五つのパロディ」 |
1936 | 管弦楽曲「パロディ的な四楽章」(「五つのパロディ」改作) |
1936 | 管弦楽曲「〈都会〉より」 |
1938 | 国民詩曲「日本俚謡による嬉遊曲」 |
1940 | カンタータ「平安京」 |
1940 | 空想部落の音楽 |
1940 | バレエ音楽「創造」 |
1941 | 管弦楽曲「大陸の歌」 |
1941 | 行進曲「堂々たる進軍」(管弦楽) |
1942 | ジャワの唄声-交響的映像- |
1943 | 管弦楽曲「大陸の歌」(3管) |
1943 | 管弦楽曲「英魂を送る」 |
1943 | 管弦楽曲「海原」 |
1944 | フィリッピン国民に贈る管弦楽序曲 |
1950 | 舞踊音楽「秋の声」(オーケストラ) |
1956 | 管弦楽曲「架空のバレエのための三楽章」 |
1956 | 交響絵巻「東京」第ニ部 |
1957 | 交響絵巻「東京」第ニ部(改訂版) |
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