指揮者 福田滋 ~日本の作曲家へかける思い~ 訊き手・構成:仁木高史
スリーシェルズの活動には欠かせない音楽家・福田滋氏。「奏楽堂の響き」シリーズでは、西耕一の企画選曲によって、これまでとは違った形で「日本の吹奏楽」へアプローチした。なかでもアーカイヴ、復元、新作委嘱初演という3つの視点で画期的かつ重要な問題提起を行った。くわえてCD録音として團伊玖磨や 金井喜久子などの名盤も残している。奏楽堂は2018年にリニューアルオープンとのことで、「奏楽堂の響き」も復活が楽しみである。スリーシェルズにとっては、久々の福田滋指揮の演奏会が3月5日に行われる。そのコンサートにかける思い、そしてライフワークである日本の作曲家の吹奏楽作品についてインタビューした。
◆指揮、編曲、執筆とご活躍ですが、これまでの御経歴は?
1980年に武蔵野音楽大学器楽科(トロンボーン専攻)を卒業しました。永年勤務した陸上自衛隊中央音楽隊ではユーフォニアム奏者を経て演奏幹部にいました。その傍ら、一般管弦楽団、吹奏楽団を始めとして、ミュージカル、ビッグバンドなど多ジャンルでの指揮をしてきました。その後、現代吹奏楽の可能性の追求をする中で、日本人作曲家の研究をライフワークとして活動し「日本の作曲家と吹奏楽の世界」(ヤマハ・ミュージック・メディア)などを上梓。編曲や評論 の活動、CDレコーディング等と日本人作曲家の紹介、演奏と活動の幅を広げてきました。とくに2006年から2010年まで継続してきた「奏楽堂の響き」 シリーズは、日本人の作品のみの吹奏楽コンサートとして各方面から高い評価を頂きました。この企画は装いも新たに今年から復活する予定です。
◆吹奏楽、ブラスの魅力とは?
やはり何といっても壮麗な響きでしょうか。弦楽器が持っているとは違う圧倒的迫力があります。その上、現在の管楽作品は繊細な音色と絶妙なバランスを要求する高度な作品が増え、このジャンルの明るい未来を感じさせます。休日の朝、一日を気分爽快に行動するために最も適した音楽。それが輝かしい音色を持つブラスの世界だと確信しています。
◆日本人の作曲家を指揮・演奏する場合に大切にされていることとは?
日本人が日本の作品を演奏するのであるなら、スコアの奥に隠されたもの、例えば時代背景・意図などを微妙に感じとることが大切と考えます。それが日本音 楽独特の間や構成・流れに繋がると思うからです。映像のための作品であれば、当然原作を深く理解して取り組むことが重要でしょう。これらは多くの日本人作 曲家とのお付き合い(作曲家50人以上にインタビューを行う)で教えて頂いたことでもありますが、伊福部昭先生からは映画音楽、團伊玖磨先生からは様々な 機会音楽、天野正道先生にはテレビ等の音楽について学ぶことができました。通常のコンサート活動の中では知り得ない貴重なことが多く含まれていました。
◆3月5日は、渡辺宙明卒寿個展ですね。渡辺氏は、諸井三郎、團伊玖磨、別宮貞雄、渡辺貞夫に師事。実は吹奏楽、日本の作曲界としても重要な作曲家なんですよね?
渡辺宙明先生は当時としては異例な経歴を持っていらっしゃいます。まず、東京大学文学部心理学科を卒業したこと。驚くのは東大在学中より團伊玖磨氏に、 大学院在籍中より諸井三郎氏に師事していた事実。後にあらゆるシチュエーションに対応できる能力はこんなしっかりとした基礎があったんです。そして、昨年 卒寿を迎えられた今も創作意欲にあふれ、作曲活動を行ってらっしゃいます。これは本当に素晴らしいことと尊敬して思います。
◆「奏楽堂の響き」の頃から、とても意義深い活動をされていますね。映画やテレビなど映像音楽における日本人作曲家の作品を演奏することの意義は?
このジャンルは現在もいえることですが、その当時のトップランナーが担当してきたという事実だと思います。日本音楽界の成長の多くを担ってきたであろう 映画・ラジオ・テレビ等の作品を振り返ることで、音楽史の歴史を辿ることができるのです。今こうして再演される作品はその中で淘汰された優れた作品として 技巧的にも、大衆性においても間違いなく優れたものといえましょう。とくに当時のあわただしい現場での演奏は充分に満足のいくものではなかったと思います が、今、そのスコアを高いレベルの演奏で、響きの良いコンサートホールで再現することは、作品の真価を改めて評価という意味でも大変意義のあることだと 思っています。 私ごとで恐縮ですが、渡辺宙明先生の作品というと子供の頃、夢中で見ていた「スーパージャイアンツ(鋼鉄の巨人)」や「忍者部隊月光」「七人の刑事」と いった作品が懐かしく思い出され、とてもワクワクしてしまいます。
◆現在の活動について教えてください。
現在は音楽評論を中心に演奏家のプロデューサーとしても活動をしています。評論は専門の現代音楽、吹奏楽や管楽器のアンサンブルだけではなく、弦楽合奏、合唱など広いジャンルにわたる評論を展開させていただいています。また、最近実力派の女性プレーヤーで結成された木管五重奏団をプロデュースさせてい ただきました。このユニットは、コンサートだけではなく出版社とのコラボで楽譜の同時出版を行っていますし、演奏曲目についても今までにない新たな方向を 目指しています。彼女たちの今後が楽しみです。
◆今後の抱負は?
今後は再び指揮活動を中心にしていきたいですね。「奏楽堂の響き」シリーズの継承、日本人作曲家の隠れた名曲の紹介、演奏を続けていきたいと思っています。執筆活動も日本作曲家についてだけではなく、広く音楽界のことついて書いていきたい。昨年から始めたラジオのプレゼンター(OTTAVA)も私にとっ て新しい挑戦といえます。クラシック音楽の番組ですが、自身の勉強をふたたびという思いで充実させていきたいです。 そういった中で今回の渡辺宙名卒寿コンサートは、私にとっての「充実元年」の良い起爆剤になると信じています。3月5日、会場でお会いしましょう。
福田 滋(ふくだ しげる)プロフィール
1980年武蔵野音楽大学卒業。様々なジャンルの指揮を通じ、現代音楽及び吹奏楽の可能性の追求、日本人作曲家の 作品紹介・普及をライフワークとしてい る。上野の旧奏楽堂で自ら指揮をする「奏楽堂の響き」シリーズは、日本人作品のみのコンサートとして注目を浴びる。 執筆活動も意欲的で「音楽現代」(芸術現代社)、CD解説等に執筆をしている他、バンドジャーナル誌の連載は70回を数えた。2012年「日本の作曲家 と吹奏楽の世界」(ヤマハ・ミュージック・メディア)を上梓。共著に「日本の響きを作る」(音楽之友社)、「日本の吹奏楽史」(青弓社)等があり、編曲作 品(東京ハッスルコピー他)も多い。15年10月からインターネットラジオ“OTTAVA”のプレゼンター。CDは「團伊玖磨吹奏楽作品集」 vol.1~2、「別宮貞雄管楽作品集」、「沖縄の響き~金井喜久子管楽作品集」、「奏楽堂の響き」1~4、「伊福部昭音 楽祭3」(以上、スリーシェルズ)など多数。初演も「マルシュ・トゥリヨンファル」(伊福部昭)など数多く手がけている。 2014年、陸上自衛隊中央音楽隊を退官、指揮者と音楽評論家として活動中。21世紀の吹奏楽“響宴”会員。JBA(日本吹奏楽指導者協会)会員、リベ ラ・ウインド・シンフォニー音楽監督。 2001年永年の文化活動の功績により鶴ヶ島市から特別表彰を、08年には防衛省陸上幕僚長より部外文化活動の功績により優秀隊員表彰を受ける。15年 「秋の叙勲」にて瑞宝単光章を受章。(撮影:坂本貴光)