「伊福部昭とその弟子たち、宿命とも形容できる音の邂逅」(小林淳)
師弟関係の契りを結んだ作曲家たちの魂の雄叫びともいえる声が耳にこだましてくる。それらの要素が演奏者各人のパッション、エネルギーをも取り込む形で爆発的なほとばしりと化して迫ってくる。伊福部の響きを根源としたスリリングかつスペクタキュラーな音の饗宴に心ゆくまで身を任せよう。
CDタイトル「伊福部昭、池野成、黛敏郎打楽器作品集」
スリーシェルズ 3SCD-0035
2778円(税抜)
バーコード 4560224350351
CDデザイン 田代亜弓
CD発売元 スリーシェルズ
録音:上埜嘉雄、編集:磯部英彬
発売日 2017年11月3日
1.池野成:ティンパナータ (1977) TIMPANATA 14分12秒
2.池野成:エヴォケイション(1974)EVOCATION 19分22秒
3.黛敏郎:シロフォンコンチェルティーノ(1965) Concertino for Xylophone and Orchestra 約12分
4.伊福部昭:ラウダ・コンチェルタータ(1979) LAUDA CONCERTATA 27分25秒
ソロティンパニ: 菅原淳
マリンバ: 岩見玲奈
ピアノ: 大嶋浩美
録音会場
伊福部、黛作品、5月16日豊洲シビックホール
池野成作品、5月29日、30日
演奏者
ティンパナータ
ティンパニ:菅原淳
打楽器:大場章裕、村居勲、岩崎愛子、岩下美香、柴原誠
フルート: 向井理絵
テナートロンボーン:加藤Billy真弘、増圭介、古川諭
ホルン: 本田史由記、杉崎瞳、小口遥
チューバ: 伊関愛里
エヴォケイション
マリンバ:岩見玲奈
打楽器:村居勲、岩崎愛子、岩下美香、野本洋介、大場章裕、柴原誠
テナートロンボーン:加藤Billy真弘、増圭介、古川諭、品川隆
バストロンボーン:小林千暁、小泉邦男
シロフォンコンチェルティーノ、ラウダコンチェルタータ
シロフォン、マリンバ: 岩見玲奈
ピアノ: 大嶋浩美
打楽器音楽の傑作を書いた伊福部昭、池野成、黛敏郎
このCDは、日本音楽界を作曲と教育の両面で支えた作曲家の伊福部昭を中心に、その弟子である池野成と黛敏郎の作品を収録したものである。伊福部昭のマリンバ協奏曲「ラウダ・コンチェルタータ」と、黛敏郎の「シロフォンコンチェルティーノ」は、打楽器奏者ならば誰もが知る傑作である。また、池野成のマリンバ協奏曲である「エヴォケイション」、ティンパニ協奏曲である「ティンパナータ」は、膨大な数の打楽器を使うためなかなか上演機会がないが、知る人ぞ知る傑作として根強い人気を持った作品であり、今回のような形でセッション録音が発売されるのは非常に喜ばしいことである。とにかく爆音でド迫力の池野成の真価がこのCDで味わえるだろう。
現在の打楽器界で最高のメンバー!
今年で70歳(古稀)を迎えた巨匠・菅原淳によるティンパニソロでコンチェルト「ティンパナータ」(池野成作曲)。ザルツブルク国際マリンバコンクール第1位の岩見玲奈がソロを担当する「黛敏郎作曲のシロフォンコンチェルティーノ」、「池野成作曲のエヴォケイション」「伊福部昭作曲のラウダ・コンチェルタータ」。池野作品では、管打楽器アンサンブルによる池野成記念アンサンブルが演奏。管楽器はオーケストラ、スタジオなどで活躍する優秀なメンバー。打楽器は、菅原淳の教えを受けたパーカッション・ギャラリーが結集。メンバーはいずれも国内外の打楽器コンクールなどで上位入賞を果たした実力者であり、今後の音楽界を担う優秀な音楽家である。黛、伊福部作品は、国内外で活躍する気鋭のピアニスト大嶋浩美が担当した。
■師弟関係の契りを結んだ作曲家たちの魂の雄叫び■ 小林 淳
伊福部昭、黛敏郎、池野成の業績を顧みる行為は、戦後日本楽壇の道程をふりかえることにもつながる。伊福部が主に東京音楽学校時代に育成した作曲家たち、つまりは芥川也寸志、奥村一、黛敏郎、矢代秋雄、池野成、小杉太一郎、永冨正之、三木稔、松村禎三、石井眞木等々の、伊福部を長とする“伊福部楽派”の創作活動がいかに現在に至る日本楽壇のあまたの部分を築いたのか、作曲界にどれほどのものをもたらしたのか、これらがおよそ見えてくる。ここでは伊福部、黛、池野、三者による打楽器作品に光があてられる。
黛敏郎と池野成、ふたりとも東京音楽学校(東京藝術大学音楽学部)で伊福部に師事した。伊福部の謦咳にふれ、対峙し、共感し、心酔し、ときにぶつかり、反発し、そうした日々と研鑽を積み重ねることでひとりの作曲家として上りつめた両者が遺した響き、鳴り、音楽形態それぞれに伊福部との対話の痕跡が詰まっていよう。彼らは伊福部ばかりでなく、池内友次郎にも師事し、黛は橋本國彦の門下でもあった。ゆえに伊福部の指導、教示によってすべてが形成された作曲家ではない。もちろん自己の志向もある。だから己の素養と思念に従って創作に向き合う藝術家であれば、こうした受け取り方は的確とはいえない。
ではあるが、運命的な邂逅を経ることで宿命とも形容できる師弟の間柄に成り立った彼ら三者三様の血のたぎり、脈動、息遣い、旋律と律動、音色への尽きることのない探求心がおのおのの作家性をともないながら現出してくるのもまた確固たる事実なのだ。黛、池野作品の根幹からは師・伊福部への賛歌が湧き上がってくるかのごときであり、伊福部作品からは、創作家は自己の美学、美観をどこまでも追求していかなければならない、いくべきなのだ、といった藝術家、創作家が備えるべき旗識があらためて突きつけられてくる。伊福部の《ラウダ・コンチェルタータ》、黛の《シロフォン・コンチェルティーノ》、池野の《エヴォケイション》、この三作品はいずれも委嘱作であるのに初演時に演奏が見送られた過去を持つ。黛、池野がまさにそのような伊福部の理念、思想に導かれていた証左となろう。
伊福部、黛、池野、日本の現代音楽界にその名を刻印した三人の作曲家の打楽器作品に浸る。音楽とは、作曲とは、意識の向上とは、自己表現とは──。師弟関係の契りを結んだ作曲家たちの魂の雄叫びともいえる声が耳にこだましてくる。それらの要素が演奏者各人のパッション、エネルギーをも取り込む形で爆発的なほとばしりと化して迫ってくる。伊福部の響きを根源としたスリリングかつスペクタキュラーな音の饗宴に心ゆくまで身を任せよう。